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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)181号 判決

原告は、請求原因三において、本件商標と引用商標とが称呼及び観念において類似するのにもかかわらず、これを類似しないとした審決の判断には誤りがある旨主張するので、以下この点を順次検討する。

1 本件商標と引用商標との称呼上の類似性について

(一) まず、本件商標の称呼について考える。

本件商標は、その構成が別紙(1)のとおりであることからみて、「ブイヨツト」の称呼を生ずることは明らかであるが、更に、<1>本件商標を構成する各文字は、「ツ」の字が他のそれに比較してやや小さいほかはすべて同じ大きさであり、かつ、同一の書体の片仮名文字をもつて現わされており、また、右各文字の間隔も同じであり、一連一体に表記されていること、<2>本件商標を構成する文字を一連に音読する場合に、特に強く発音する文字又は部分(アクセント)はなく各文字に対応する音にほとんど強弱の差異がないこと、<3>本件商標は、全体が比較的少ない五個の文字ないし音数からなり、単一の語として淀みなく一気に発音され少しも不自然でないこと、<4>本件商標を構成する前部の「ブイ」は、浮標、浮環、V、部位など、それ自体一義的な特定の意味内容を有する単語ではなく、また、これに続く「ヨツト」を修飾し又はこれに付加結合されるような特別の意味若しくは機能を有する言葉でもなく、本件商標の「ブイヨツト」が明らかに一個の造語であることなどを合せ考えると、指定商品についての簡易迅速を旨とする取引の実際を考慮にいれても、「ブイヨツト」という一連不可分の称呼のみを生じ、「ブイ」と「ヨツト」とが分離し、「ブイ」又は「ヨツト」の称呼を生ずるものではないとみるのが相当である。

この点について原告は、本件商標は、「ブイ」と「ヨツト」とが結合したものであり、「ブイ」や「ヨツト」が各個に日常用語として広く用いられていること、ヨツトには人命救助用ブイ(浮環)が常備されており、両者は極めて緊密な関係にあつて右ブイがヨツトの付属物であることや「ブイ」がアルフアベツトの「V」に通じ指定商品の規格、品質などを表示する符号として用いられること及び被告がアルフアベツトの「V」とヨツトの図形又は「Yacht」の文字を結合した商標を、被告の製造販売に係る学生服に使用していることなどから、「ヨツト」の称呼を生ずる旨主張する。しかしながら、ヨツトの語が広く用いられているとしても、前<1>ないし<4>に記載の点からすれば、そのことだけで、本件商標から「ヨツト」の部分が分離し、「ヨツト」の称呼が生ずるとは考えられず、ことに、本件商標が、前示のとおり、一連一体に片仮名文字をもつて左横書きにした顕著な造語「ブイヨツト」のみから成つていること、つまり、「ブイ(BUOY)と「ヨツト」(YACHT)とから成つているものではないことによれば、「ブイ」、「ヨツト」の各個が日常用語であること、「ヨツト」と浮環(救命用ブイ)との関係、英文字「V」の用語法、被告が使用し登録出願をしている他の商標(成立に争いのない甲第一〇号証、第一二号証の一、二)の存在などを考慮しても、これらが本件商標から「ヨツト」のみの称呼が分離して生ずるとされる事由となるものとは考えられない。また、被告の右商標が本件商標と類似するとされているとしても、一連の「ブイヨツト」としての称呼において類似するともいえるから、これをもつて直ちに、本件商標が「ブイ」と「ヨツト」とに当然に分離されるとしうるわけのものでもないことは、いうまでもない。

(二) 次に引用商標(A、B両商標)の称呼について考える。

引用商標からは、後記のとおり「ヨツト(小帆船)」又はこれと「浮環」若しくは「浮袋」の観念を生ずることからすると、「ヨツト」又は「ヨツト、ウキワ」、「ヨツト、ウキブクロ」若しくは「ヨツト、キユウメイグ」の称呼を生ずることがあるとしても、「ブイ」の称呼は生じないものと解するのが相当である。けだし、本件商標及び引用商標の指定商品に係る取引者、需要者を標準としてみるに、わが国において、「ブイ(BUOY)」は、通常は浮標(港湾、河川などにおいて水面に浮かべて暗礁、航路などを知らせる標識)を意味し、また、引用商標に画かれているいわばドーナツ型の浮きは、それが水泳用のものであれ救命用のものであれ、通常浮環又は浮袋といい、ブイとはいわないものとするのが常識に属する経験則上明らかであるからである。もつとも、ブイ(BUOY)の語につき、国語辞典等における第二義的説明として浮環、浮袋の意味が掲げられていることからして、引用例に画かれた浮きの図形を見る者が、これを「ブイ」と称呼することが全くないとはいえないとしても、右に述べた点及び辞典等に掲げられているものが常に必ずしも当該商標についてそのように認識されるべきものとなるとは限らないことを考慮すると、それは極めて稀であると考えられ、したがつて、このことは商標の識別機能に影響を及ぼす程のものとはいえないから、このような事情をも本件商標の類否の判断に当つて考慮するのは相当でないというべきである。なお、たまたま引用商標が「ブイヨツト」又は「YACHT BUOY」と分類表示された事跡が存するとしても(成立に争いのない甲第四号証の四)、上来の説示に徴し、これをもつて、右判断を左右するに足りないことは明らかである。

(三) 以上のとおり、本件商標からは、一連不可分的に「ブイヨツト」の称呼のみを生じ、また、引用A、B商標からは、それぞれ「ヨツト」、又は「ヨツト、ウキワ」、「ヨツト、ウキブクロ」の称呼を生じ、したがつて、本件商標と引用商標との間には称呼上の類似性はないものというべきであり、この認定を左右するに足りる証拠はない。

2 本件商標と引用商標との観念上の類似性について

(一) 本件商標は、前認定のとおり一連不可分的に「ブイヨツト」の称呼のみを生ずることに鑑みると、これが通用語としては存在しない造語であり、したがつて、これに接する者が特定の観念を抱くとは考えられない。

(二) これに対し、引用商標は、その構成が別紙(2)、(3)のとおり中央部に黒く塗りつぶされて上方向に突き出した大きな帆を有するヨツトが画かれ、その周囲に綱を付した浮環の図形が配されていることからすれば、これより「ヨツト(小帆船)」、又は、これと「浮環」、「浮袋」、「救命具」などの観念を生ずるものと考えられる。

(三) そうしてみると、本件商標と引用商標との間には、観念上の類似性も認められず、この認定を左右するに足りる証拠はない。

3 以上検討したところから明らかなとおり、本件商標と引用商標との間には、称呼上及び観念上の類似性はいずれも認められず、また、その各構成からみて外観においても類似しないものであることは明らかである(なお、外観上の類似については、原告も何ら主張しないところである。)。

よつて、本件商標と引用商標との間に類似性がないとした審決の判断には誤りがなく、したがつて、その判断に誤りがあるとして取消を求める原告の本訴請求は理由がない。

〔編註〕本件に関する商標は左のとおりである。

別紙

(1)

<省略>

(2)

<省略>

(3)

<省略>

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